鍼灸院のM&A・事業承継を成功に導く専門情報サイト。売却相場から買収のメリット、保健所の手続きまで、売り手と買い手双方に役立つ最新ノウハウを網羅的に解説します。

鍼灸院継承の全体フローとスケジュールの目安

鍼灸院継承の全体フローとスケジュールの目安


鍼灸院の継承は、準備から引き継ぎ完了までおおむね6〜12か月を見込むのが現実的です。相手探しに時間がかかるため、「辞めたい時期」の1年前から動き始めると選択肢が広がります。


ステップ主な作業期間の目安担い手
①方針決定継承か廃業かを比較、譲渡希望条件の整理2〜4週間売り手
②資料準備確定申告書、患者数、回数券残高、契約書の棚卸し2〜4週間売り手
③価値試算時価純資産とのれん代の算定、希望価格の設定2〜3週間売り手+専門家
④相手探し仲介会社・プラットフォームへの登録、ノンネームでの打診1〜6か月仲介+売り手
⑤面談・見学トップ面談、院の見学、方針のすり合わせ2〜6週間双方
⑥基本合意意向表明書・基本合意書の締結、独占交渉期間の設定1〜2週間双方
⑦DD財務・労務・法務の調査、回数券と保険請求の確認2〜6週間買い手
⑧最終契約事業譲渡契約書の締結、価格の最終調整2〜4週間双方
⑨クロージング対価決済、賃貸借・リースの名義変更、保健所届出1〜4週間双方
⑩引き継ぎ併走期間、患者・スタッフへの告知、業務移管1〜3か月双方
工程の中で最も読めないのは④の相手探しです。逆に、②の資料準備が整っている院は③〜⑧が一気に短縮されます。「売れるかどうか」よりも「説明できる状態になっているか」が期間を決める、と考えて差し支えありません。

鍼灸院継承に必要な行政手続き|保健所の廃止届・開設届が起点


鍼灸院を継承する場合、原則として施術所の「名義変更」という手続きは存在しません。売り手が「施術所廃止届」を提出し、買い手が新たに「施術所開設届」を提出する、という二段構えになります。ここを誤解していると、継承日に無届け営業の状態を作ってしまう恐れがあります。


廃止届・開設届の基本


届出提出者提出先期限主な添付書類
施術所廃止届売り手(前開設者)施術所所在地の管轄保健所廃止後10日以内届出済みの控え、印鑑など自治体の指定書類
施術所開設届買い手(新開設者)施術所所在地の管轄保健所開設後10日以内施術者の免許証の写し(原本提示を求められる場合あり)、施術所の平面図・付近図、建物の賃貸借契約書の写し、開設者が法人の場合は登記事項証明書など
添付書類の種類・部数・様式は自治体ごとに異なります。着手前に管轄保健所へ事前相談を行い、様式と必要書類の一覧をもらうのが最も確実な進め方です。構造設備や衛生措置についても、自治体が独自の基準や運用を定めていることがあります。

休業期間を作らないための進め方


継承日に営業を止めずに切り替えるには、スケジュールの組み方が重要です。


  1. 最終契約の目処が立った時点で保健所に事前相談し、切り替えの段取りと必要書類を確認する
  2. 引き継ぎ日(クロージング日)を月初などキリの良い日に設定し、前日付で廃止、当日付で開設とする
  3. 開設届に必要な書類(免許証の写し、平面図、賃貸借契約書の写し等)を事前に揃えておく
  4. 賃貸借契約の名義変更・再契約を同日に合わせる(契約書の写しが開設届の添付書類になるため、ここが遅れると届出も遅れる)
  5. 届出後に受付印のある控えを必ず保管し、保険者や関係先への届出に使う
保健所の届出は事後10日以内が原則ですが、「書類が揃っていない」「貸主の承諾が遅れた」といった理由で後ろ倒しになるケースが散見されます。届出は事後でも、準備は事前という意識を持っておきましょう。

構造設備と「届出内容と現況のズレ」に注意


継承する院は内装がそのまま残っているため設備基準は満たしていると思いがちですが、実際には次のようなズレが指摘されることがあります。


  • 前の開設者の届出後にベッドを増設し、施術室の面積や区画が届出内容と異なっている
  • 待合スペースを削ってバックヤードに転用している
  • 同じ建物内でエステや整体など別業態と区画が不明確になっている
  • 換気・採光・消毒設備の運用が基準を満たしていない
開設届の提出に合わせて現況の平面図を作り直すと、こうした指摘を前倒しで解消できます。

税務・労務・保険の手続き一覧


保健所以外にも、期限のある手続きが並行して発生します。下表は事業譲渡(個人事業間)を前提とした整理です。


窓口売り手の手続き買い手の手続き期限の目安
税務署個人事業の廃業届、青色申告の取りやめ届、給与支払事務所等の廃止届個人事業の開業届、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届開業届は1か月以内、青色申告承認申請は原則2か月以内など区分ごとに異なる
都道府県税事務所・市区町村事業廃止の届出事業開始等申告書自治体の定めによる
労働基準監督署労働保険の確定精算、廃止の手続き労働保険関係成立届、概算保険料申告書成立届は保険関係成立から10日以内
ハローワーク雇用保険の資格喪失届、離職証明書適用事業所設置届、被保険者資格取得届設置届は10日以内、取得届は翌月10日まで
年金事務所(加入していた場合)全喪届、資格喪失届(要件に該当する場合)新規適用届、資格取得届事実発生から5日以内
リース会社・貸主契約の解約または名義変更の承諾取得新規契約または契約引き継ぎ決済日に合わせる
金融機関・決済代行口座・キャッシュレス決済の解約口座開設、決済端末の申込審査期間を考慮し1〜2か月前から

療養費(受領委任)の取り扱いは要確認


健康保険を使ったはり・きゅうの施術で療養費の受領委任の取り扱いを行う場合、施術者・施術所ごとに所定の申し出と承諾の手続きが必要です。開設者が変わると、この取り扱いも引き継げない前提で考えるのが安全です。


保険診療の比率が高い院を継承するなら、切り替え時期に保険請求が一時的に止まるリスクをキャッシュフロー計画に織り込んでおきましょう。手続きの具体的な流れは管轄の地方厚生(支)局や保険者に確認してください。


鍼灸院の継承に関するよくある質問


個人事業主の鍼灸院でもM&A(売却)は可能ですか?


可能です。株式がないため株式譲渡は使えませんが、「事業譲渡」というスキームを使い、設備やカルテ、のれんを個別に引き継ぎます。引き継ぐ資産・契約を一つずつ指定するため、何を譲渡対象にするかを一覧化しておくと交渉が進みやすくなります。


資格を持っていなくても鍼灸院を買収できますか?


可能です。鍼灸院の開設者(経営者)と施術者は別の立場であるため、無資格者が経営主体になることは差し支えありません。ただし実際に施術を行うには「はり師」「きゅう師」の国家資格を持つスタッフを雇用し、保健所へ届出を行う必要があります。施術者が確保できていなければ、継承しても営業を続けられない点に注意してください。


患者さんはそのまま引き継げますか?


全員が残るとは限りません。鍼灸院は属人性が高く、「院長個人の施術」を理由に通っている患者が一定数いるため、交代に伴う離脱を見込む必要があります。併走期間の設定、カルテと施術方針の丁寧な引き継ぎ、料金やメニューを急に変えないといった配慮で離脱幅は小さくできます。買い手は、売上が下振れしても資金が回る計画を立てておくことが前提です。


保健所への手続きは名義変更だけで済みますか?


いいえ。原則として名義変更という手続きはなく、前院長が「施術所廃止届」を、新院長が「施術所開設届」を提出する必要があります。いずれも事実発生後10日以内が期限で、提出先は施術所所在地の管轄保健所です。様式と添付書類は自治体で異なるため、事前相談で一覧を確認し、引き継ぎ日に合わせて書類を揃えておきましょう。


未消化の回数券はどう処理されますか?


買い手が引き継ぐ場合は、未消化分の金額を「負債」として譲渡価格から減額調整するのが一般的です。ほかに、売り手が引き継ぎ前に返金や使い切り案内で清算する方法、引き継ぎ後に消化した分を売り手が月次で精算する方法もあります。いずれも残高の正確な一覧が出発点になるため、販売・消化の記録整備を優先してください。


スタッフには、いつ・どう伝えるべきですか?


基本合意からDDの段階で情報が漏れると動揺が広がるため、主要スタッフへの開示タイミングは仲介者と相談して決めます。多くのケースでは、条件がほぼ固まった段階で、処遇(給与・勤務時間・役割)を具体的に示しながら伝えます。個人事業間の譲渡では雇用契約を結び直す必要があるため、「新しい契約書の内容」まで用意して話すのが誠実な進め方です。


譲渡価格は交渉で上げられますか?


準備によって変わります。価格ののれん代部分は「院長が抜けても利益が続くか」で評価されるため、施術手順のマニュアル化、自費メニューの整備、数字の可視化、スタッフの定着といった要素が効きます。逆に、未消化の回数券や不透明な保険請求、契約書の不備といったマイナス要因は減額材料になるので、売却を考えた時点から1年程度かけて整えると交渉力が高まります。


廃業と継承、どちらが有利ですか?


数字で比較するのが確実です。廃業では原状回復費・設備処分費・従業員の退職対応といった支出が発生し、手残りがマイナスになることもあります。一方、継承なら譲渡対価が得られ、患者とスタッフの行き先も確保できます。ただし赤字続きで設備も老朽化している場合は買い手が見つかりにくいため、「設備のみの居抜き譲渡」まで含めて選択肢を比較してください。


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